弘前の街にも白いモノが舞うようになった。思えば、洋服屋という仕事を辞してから半年が経とうとしている。
街で知り合いに会うと「あれ、今どうしてるの?」と挨拶がわりに訊かれる。「貧乏な自由人やってます」と、つい答えてしまう。実際お金持ちでもないし、時間に縛られる生活をしているわけではない。が、それなりに忙しい日々を送っている。
朝夕の飯支度、ニャンコの飯支度、買い物、洗濯も1日に2回。掃除(はサボり気味)。まあ、主夫ならば当然やらねばならぬことばかり。
でも主夫業をするからといって、飯が食えるわけでもない。働いて稼がなければ飯は食えぬ。だから、幾つかの小さな仕事をちょこちょことやっている。
本当のことを言えば、いつかは作品作りをしたいと考えている。写真は好きだけれど「写真を撮って、それを額装して展示する」というのは、本当に自分がやりたいことではない。写真を生かし、自分自身が手を加えた作品作りをしたいと思っている。
ただ、これまた作品を作ったところで、それで飯が食えるわけではない。だから、いろいろと小さな仕事をしているのだ。少なくとも、娘が高校を卒業するまでは、なにかしらの生業で稼がなくてはならない。
40年近く洋服屋を生業にしてきたので、家の中にはたくさんの洋服があった。それは、店で着るために買ったものもあれば、コレクションとして買った古い洋服やスニーカーもあった。
インターネットの普及した現在はどうかわからないが、僕らの若い頃は、情報を入手するのは雑誌だった。雑誌の中のことが本当なのかどうか調べる術もなかったが、それを信じ、むさぼり求めた。
しかし、僕らはそんな無駄と思えるモノの中に新しい価値を見つけた。そして、そういった無駄の蓄積があったからこそ、40年もの間、洋服屋を続けることができた。
ただ、そのおかげで、多くの無駄の産物が家の全てのスペースを占拠していた。
だから、私は、それらを少しずつ売ろうと考えた。
数年前「断捨離」という言葉が流行った。とくに震災以降、無駄なものは買わず、使わないものは処分して身の回りを軽くしよう。そんな風潮が強くなった。
確かに、人々はモノを持ちすぎたかもしれない。でも自分は「断捨離」という言葉を好きになれなかった。「断捨離」で捨てられてしまうものには、「無駄で価値がないモノ」というニュアンスを感じていたから。
家の中を占拠している多くの無駄には価値があるという確信があった。ほんの一人か二人くらいは「これ!これが欲しかったんだ!」という人がいるはずだ。弘前には誰一人いなくとも、日本中のどこかにいるはずだと思った。
だから、私は、それらを少しずつ売ろうと考えた。これで少しは飯が食えるかもしれない。
そうして、私は少しずつ、無駄で価値のあるモノを売り始めた。
幾つかの無駄が少しずつ売れ始めた。何点か売れても、家の中の洋服が減ったようには見えなかったし、買い物に出かける時に着るものがなくて困ることは100%なかった。
でも、売れ始めて思うことがあった。少しだけ寂しさがあったのだ。無駄ではあるかもしれないが、自分というアイデンティティを形作ってくれた彼らを手放すことに、一抹の寂しさを感じていた。
そこで思った。
(そういえば、こんな洋服やスニーカー持ってたなあ…) そんなふうに思い出してふり返ることができる日記みたいのを書いておこう。
そうして書き始めたのが、この『 VINTAGE 7 』というブログだった。
実は、『 FEROKIE BLOG 』と並行して、2年程前から自分のファッションアーカイブとして少しずつ書いていた。
『 FEROKIE BLOG 』でも「FASHION」のカテゴリーはあったのだが、服屋に勤めていた頃は、店で販売しているモノしか書けない気がしていたし、実際のところ写真や音楽やラーメンのことを書いていた方が気が楽だった。
でも洋服屋を辞めて「無駄で価値のあるモノ」を売ろうと考えたとき、この『 VINTAGE 7 』をあらためて書いていこうと思ったのだ。
すでに幾つかのブランドやアイテムについて書いていたけれど、内容を少しずつ加筆・修正しながら更新していこうと思う。
ファッションにおける自身のアーカイブ故、『 FEROKIE BLOG 』でのラーメンや温泉の話に比べると、少々薀蓄くさい内容だと思うので、さらっと読み流してもらえれば有難し。
超〜長い前置きになってしまったけど、最初に書いたのがコチラ↓↓↓。よろしくお願いいたします。
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〈vintage〉といえば、人それぞれに思い描くジャンルがあるだろう。
ある人は「車」だったり、ある人は「楽器」だったり。自分にとって〈vintage〉といえば、「洋服&シューズ」。
長年、ファッション業界に携わってきた。高校時代から40数年もの間、いろんな洋服やシューズに触れてきた。かつての流行の中に〈vintage〉ブームもあったし、過去に自分自身が身につけていた服が、いつの間にか〈vintage〉になってしまったモノもある。
また、洋服の業界に身を置いてると、自然に家具やインテリアにも拘る時期があった。90年代後半のイームズをはじめとしたモダンファニチャーブームなどが、まさにそれだ。
なので自分にとって〈vintage〉といえば、「家具」もその対象になるし、そこからリンクして「ART」や「写真」などもカテゴリーとして含まれるだろう。
もっとも、ヴィンテージアートを購入するほどの財は持ち合わせてはないんだけど…
〈vintage〉といえば、「マニア」という言葉がくっつくイメージがある。そして「マニア」と言われる方々は、それぞれのジャンルのついての造詣が深く、薀蓄(ウンチク)を語りだしたら止まらない。
共通の趣向を持つ「マニア」の方々にとって、その薀蓄を語る時間(とき)は、夜が明けても語りつくせぬほどの最高のひと時。
さて、〈vintage〉を語るブログとなれば、より薀蓄めいた話の方が、その筋の「マニア」には支持されるだろうが、残念ながらこのブログ、そんなマニアが喜ぶ薀蓄を語れるかといえば「NO NO NO!」。
私はどちらかといえば「セレクトショップ」に影響を受けてきた人間である。最初はアメカジ、いわゆる「メイドインUSA」に影響を受け、その後はイギリスやフランスのインポート物、やがてはデザイナーズ物と、その時代その時代のトレンドに強く惹かれていた…まあ、わかりやすく言えば、ただのミーハーだったのだ。
故に、ひとつのジャンルに傾倒してきた方には、そのジャンルでは到底敵わない。ただ、誰よりも幅広いジャンルの洋服やシューズに興味を持ち、そして買い、身につけてきたという妙な自負はあるのだ。
そんな私自身の思い描く〈vintage〉の魅力は、細かい薀蓄や知識というよりも、醸し出す雰囲気や組み合わせのオモシロさというところにあると言える。
〈vintage〉アイテムの持つ雰囲気がスタイリングを激変させることもあるし、またちょっとしたスパイスになることもある。
それはインテリアでも然りで、無機質なモダンなインテリアに、古いデンマークのキャビネットが置かれているのを見ると、感覚の良さも感じるし、そのヌケ感にホッと落ち着きを感じてしまう。
もう少しで還暦を迎える自分。
クローゼットに眠る服や靴を少しずつ整理をしつつ、彼らを手に入れたときのことを思い出しながら、こうしてブログに書いてみようと思う。
タイトルに「open!」とあるが、実際の店は無し。
「路地裏を歩いてたら【 VINTAGE 7 】という小さな店があったので、ちょっと立ち寄ってみようかな」くらいのお気持ちで、ここを覗いていただければ、ありがたいです。