フランス製の「カバーオール」/  モールスキンジャケットは作業着なのにエレガントである

 

長い間ファッションに携わっていると、当然ながら着なくなるアイテムもあれば、数年サイクルで再び袖を通すアイテムもある。そして、飽きることなく毎年のように着続けるアイテムもある。

それが必ずしも一般的に言われる定番とは限らない。が、おそらく誰もが自分の中に自分だけの定番があるだろう。

私にとってその一つが「カバーオール」だ。

 

「カバーオール」と言われるこのワークジャケット。いわゆる作業着。『オシュコシュ』や『ヘラクレス』などのアメリカ物が有名だが、そのほとんどはデニム素材である。

しかし、時代背景や生産背景は詳しく知らないが、ヨーロッパのワークブランドはツイルやモールスキンで作られているものが多い。

  

デニムの「カバーオール」も、モールスキンの「カバーオール」も好きなのだが、最近はもっぱらモールスキン。(ちなみに、モールスキンは「カバーオール」というよりは「ジャケット」と言った方がしっくりくるね)

デニム物はステッチの色が目立ったり、ポケットにフラップがついたりして、どうしてもアメカジ色が強くなりがち。パンツやシューズとのスタイリングも、やや限られてしまう感がある。

それと、デニムだとちょっとカワイイ感じになっちゃうのが、オッさん的にはちょっとアレで…  あまり、ガーデニング好きなナチュラルオヤジには見られたくないのだ。

  

フランス製のモールスキンジャケット

 

その点、モールスキンのジャケットには、フランス独特の哀愁が漂っている。

古い工房で、モールスキンを着たお爺さんが椅子を作っている。朝早い時間に、モールスキンを着た黒人のおじさんが、石畳の落ち葉を掃いている。

決して地位の高い人が着ているイメージはないが、どこかクラフツマン的で、エレガントさえも感じてしまう。これはよくある日本の服好きが思い描く「フランスコンプレックス」のひとつかもしれない。

 

内側のタグ。フランス語です。ブランド不詳。

 

春夏であればツイル、秋冬ならモールスキンなのだろうが、やはりモールスキンの方が雰囲気。あの密に打ち込まれた生地はにはロマンがある。

現行品でもしっかりとした素材のモールスキンジャケットがあって、自分は「LE LABOUREUR(ルラブルール) 」という老舗メーカーの現行モノを持っているが、これがまた素材が良すぎて生地がなかなかヘビー。

やはり昔のモノの方が、素材はしっかりしているけど時間とともに「こなれ感」が出ていて、ちょうど良い具合に着やすくなっている。

 

  

色はやはり濃いめのインクブルーがいい。

ブラックが希少な色として人気もありプレ値がついているようだが、インクブルーの方がフレンチのイメージ。

メーカーは「Adolphe Lafont (アドルフラフォン)」や「ST.JAMES (セントジェームス)」あたりが人気で、軍モノから派生した無名のものも多く存在する。

自分はあまりメーカー・ブランドに拘りはなく、生地感、色具合、シルエットを重視している。襟のカタチも気になるディティール。襟のカタチひとつでモードな雰囲気にもなる。

ちなみに、モールスキンジャケットを着たときにシルクのスカーフやヴィンテージのストールを合わせるスタイルが好きだ。ワークウェアだけどモード。チープだけれどエレガント。そんな演出をできるのが、このジャケットの魅力でもある。

 

退色したブルーもまた良し。イギリスのヴィンテージストールを合わせる。

 

当然、合わせるパンツも濃いめのデニムやウールのパンツなど、どちらかといえば上品なアイテムの方が相性は良く、足元はやはりレザーシューズ。

「J.M.WESTON」や「Tricker’s」もいいけど、個人的には「Church’s(チャーチ)」のウィングチップを合わせるのが好みかな。

 

イラストレーション:おおたにまさえ

  

こんな感じで、本来はラフなウェアであるはずの「カバーオール」だが、「フランス製のモールスキンジャケット」となれば、なぜかワンランク上の気合の入ったスタイリングになってしまうのだ。

ちなみに、フランス製に拘っているわけではない。マニアの間では、ドイツ製やイギリス製を珍重がったりしている。でもフランス製の方がタマ数も多く、珍品を探す楽しみもある。

 

何よりもやはり、フランスものはエレガントであり、そして哀愁があるのだった。ボンソワ〜

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