盗まれたスニーカー / フランス製【PALLADIUM】の「PAMPA」

 

高校生だった頃、スニーカーといえば「リーガル」だった。Rマークが入ってるのを皆履いていた。

でも、なんとなく他人と被るのがイヤで、通信販売を駆使して「コンバース」のハイカットを入手した。

大学に入ると、オシャレなヤツは「アディダス」を履いていた。スタンスミスとかカントリーとか。

まだ「NIKE」を履いている人は少なかった(あまり売ってなかった)が、いずれにしてもスニーカーといえばアメリカのスポーツブランドが主流だった。

 

IVYファッションも落ち着き、ヨーロッパのインポート物の人気が出始めた頃、とあるブランドのスニーカーが注目を集め始めた。

それがフランスの「PALLADIUM / パラディウム」だった。

 

「PALLADIUM / パラディウム」のスニーカー

 

【PALLADIUM】 〜元々は航空機専用のタイヤメーカーとしてフランスで創業。後にフランス軍より砂漠で使用する軍靴の作成依頼を受け、1947年にブランドのアイコンである、この「PAMPA(パンパ)」を完成させた

明らかにスポーツ系とは異なるミリタリー風な面持ち。ゴツめなデザインながら、キャンバス生地の軽快さが妙にかわいい。

「PAMPA」にはハイカットとローカットがあるが、大学時代、私は黒のローカットを持っていた。

チノパンツをロールアップして「パラディウム」を合わせる。真面目なスタイルに見えていたIVYを卒業したような気分になった。

 

ゴツめのソールが良い
 
MADE IN FRANCE

 

「MADE IN U.S.A.」に比べると、なんともエレガントな「MADE IN FRANCE」の文字。

私は、この無骨ながらも雰囲気のあるフランス製のスニーカーの虜になった。

 

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私は「サンダ館」という不思議な名前の古いアパートに住んでいた。

40年も前のことだが、その時点で築30年以上経っていたから、戦後間もなく建てられたアパートだった。

正面から見ると五角形の形をしていて、良い言い方をすれば古い洋館のようなアパートだった。「蔦のからまるサンダ館」と言われ、アパートの壁に絡まる無数の蔦も、洋館ぽさを演出していた。

その雰囲気も気に入ってたのだが、そのアパートを選んだ理由の一つには先輩のSさんが住んでいたことだった。

S先輩は、高校の時の音楽部の先輩でもあり、大学に入ってからも一緒に歌っていた合唱団の先輩でもあった。

私の部屋は2階にあって、S先輩の真向かいだった。台所もトイレも共同。風呂はなかった。

よく、S先輩の部屋に集まって麻雀をした。夜中に腹が減って、ラーメンを作ろうと台所に行ったとき、ガス台の下に何か動くものを見つけ、覗いてみたら何匹ものゴキが動き回っていて声を失ったこともあった。

 

ある日、事件が起きた。

「サンダ館」は玄関も共同だった。玄関にはいくつもの靴が散乱していた。

大学に行こうと玄関に下りると、私のゴツくてかわいい靴がなくなっていたことに気づいた。

(盗まれた!)

いくら探しても「パラディウム」の姿はない。

共同玄関だから鍵はかけられていなかった。盗まれたのではなく、誰かが間違って履いて行ってしまったのかもしれない。

いずれにしても、私の「パラディウム」が帰ってくることはなかった。

 

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その後、私はネイビーカラーの「パラディウム」を買った。

大学を卒業し、洋服屋になってからは、自分の店でも「パラディウム」をセレクトして、黒のハイカットを買った。

 

PAMPA – Hi

 

最後に「パラディウム」を履いたのはいつだったろうか。その存在すら忘れかけていた。

それだけ長い間、このゴツくてかわいいスニーカーを履いていなかった。

 

いつだったか服や靴を整理しようと物置のダンボールを見たら、「パラディウム」が出てきた。

あまり履いていなかったのか、状態はとてもキレイだった。ソールを見ると、はっきりと「MADE IN FRANCE」が見てとれた。現在はフランスでは作られていないらしい。

  

何となくノスタルジーな気分になった。

(久しぶりにコイツを履いて、ロールアップしたチノでも合わせてみようか)

いつだったかの「トップサイダー」はキツくて入らなかったが、コイツは幅があるので大丈夫だろう。

大丈夫じゃなかった(涙)。

 

イラストレーション:おおたにまさえ

 

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