洋服以上に、食器やグラスといった、いわゆる「Tableware」のジャンルにはヴィンテージマニアが多く存在する。いや、むしろアンテークマニアと呼んだ方がいいかもしれない。
ご存知の方も多いと思うが、アンティークとヴィンテージの違いは、主に経過している時間=古さにある。語るジャンルにもよるが、一般的には100年以上の歴史があるものをアンティークと呼ぶらしい。
それに対し、ヴィンテージは(もともとはワイン用語で、醸造を経た一連の工程を表したもの)20年以上の年月が過ぎたものに対して使われるようだ。
そう考えると、ヴィンテージよりもアンティークのほうが圧倒的に古いということになる。
食器やグラスといったジャンルの素材は、洋服に比べると劣化しにくいのは明らかなので、ヴィンテージはもちろん、アンティークとして価値のあるものが数多く存在する。
古いグラスが好きで、幾つか買い集めた時期があった。ただ、アンティーク=骨董品の域に脚を踏み入れるには、それらをコレクションするエネルギー、そして何といっても財が必要…
ひとつのグラスに、しかも壊れてしまうかもしれないモノに、数万円をかけるのは、さすがに無理っス。
元来は洋服バカだったけど、自宅を建てたあたりから家具や食器などにも興味を持ち始めた。こういうパターンは結構多いと思う。
家具などはモノが大きいだけに最初が肝心だけど、食器やグラスは少しばかり置く場所があれば、ついつい買ってしまうという困ったアイテムだ。
そんな困ったアイテムの中で、最初の頃に手に入れたのが、この「Old Baccarat(オールドバカラ)」のミニタンブラー。
タンブラーという言葉を自身で使ったことはあまりなかったが、「バカラ」のことを調べているうちによく目にするようになった。
広義でグラスといえば、その中にタンブラーも含まれるらしいので厳密な違いはよくわからない。
ただ、高さが5cmくらいのものはショットグラスと呼び、7〜8cmくらいで口径が広いものはロックグラスと呼び、高さが10cm前後で、底が平らになっているようなグラスをタンブラーと称していることが多いようだ。
当時は「バカラ」のことについては、ほぼ無知。でも歴史のあるメーカーなのは知っていたので、なんとなく惹かれるものがあった。
ある日、このグラスをネットで見つけ、カタチ的にもいろいろ使えそうだなと思い購入。おそらく1万円はしなかったヴィンテージ。アンティークではない。
数日後、手元に届いたグラスを手にしてみて驚いた。思っていた以上に、遥かに薄かったのだ。高さは9cmほどだったが、それは薄く軽く、何かにぶつけるとすぐに割れてしまいそうだった。
軽く弾くと「キ〜ン」と心地よい音がした。
「バカラ」のグラスにはいろいろな特徴がある。
「アルクール」というカットや、「ローハン」という装飾など、古くからあるシリーズがよく知られる。
ほとんどのバカラのグラスの底にはバカラマークが入っている。マニアの間では、そのマークの種類や有無によって価値が語られるようだ。
もう10年以上前に買ったグラスなので、どのくらい古いグラスだったのかは憶えてない。
改めて調べてみたら、このカッティングは「パリ」と呼ばれるカットであることが判明した。現行にあるモデルかどうかは不明だが、ネットにある「パリ」のほとんどは「オールドバカラ」だった。
以前「バカラ」に通じている知り合いに見せたところ、「これはジュースグラスだと思う」という話。
そういえば、パリ出張に行ってた頃、ホテルの朝食で飲んだオレンジジュースのグラスは、こんな感じの小さなグラスだった。
しかもカッティングが「パリ」という名も良いな。
自宅でジュースを飲む時は、もうちょい大きめなグラスでゴクゴク飲むので、この「オールドバカラ」は毎晩ワインを飲むときに使っている。
グラスにワインを半分くらい注いでテーブルに置くと、「パリ」の美しいカットが美しい影を描く。
ワンコインのお手軽ワインも、このグラスのおかげでほんの少しだけ「PARIS」の気分を味わえるのだった。